裁判例に学ぶセクハラの定義・セクハラ被害者ができること

「セクハラにあっていて、退職も考えている。
でもこのままで済ませるのは納得できない。
被害者ができることは何かないのか」

セクハラにあった場合、加害者に対して、慰謝料請求をすることが可能な場合があります。
また、加害者の会社に対しても責任を問える場合があります。
では、裁判例では、どのような行為がセクハラとされ、どのような判断がされているでしょうか。

  • セクハラの定義
  • セクハラの裁判例
  • セクハラ被害者ができること

について弁護士が説明します。

セクハラの定義

セクハラという言葉をよく聞きますが、その定義は必ずしも正確には知られていません。
そこでまずはセクハラの定義を説明します。

参考:「ハラスメント基本情報」ハラスメントの定義|厚生労働省
参考:Ⅲ「職場におけるセクシュアルハラスメント」の種類は|厚生労働省
参考:セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ│厚生労働省

(1)セクハラの定義

セクハラの定義は次にように解釈されています。

  1. 職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けること
  2. 性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること

簡単にいえば、職場における性的な言動によって、労働者に嫌な思いをさせると、セクハラに該当する可能性があるということです。

この定義に出てくる「職場」、「労働者」、「性的な言動」とは、具体的には次のとおり解釈されています(平成18年厚生労働省告示第615号)。

(1-1)「職場」とは

会社の中という意味ではなく、業務上関係する場所、という意味です。
(例)

  • 通常仕事しているオフィス
  • 業務のため訪れた取引先や出張先
  • 業務のため使用する車の中
  • 業務の延長と考えられるような飲み会

(1-2)「労働者」とは

正社員だけでなくパートやアルバイト、契約社員など事業主が雇用する労働者の全て、という意味です。

(1-3)「性的な言動」とは

<性的な内容を含む発言>と、<性的な行動>を意味します。

<性的な内容を含む発言の例>

  • 性的な事実関係を尋ねること
  • 性的な内容の噂を流すこと
  • 性的な冗談やからかい
  • 性的体験談を話すこと

<性的な行動の例>

  • 性的な関係を強要すること
  • 腰や胸を触ること
  • ヌード写真を配布・掲示すること

(1-4)セクハラに性別関係ない

男性も女性も、加害者にも被害者にもなる可能性があります。
同性に対する性的な言動もセクハラになることがありますし、被害者がどんな性的指向や性自認であっても、性的な言動がセクハラになることには変わりありません。

「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」がある

セクハラには「対価型セクハラ」「環境型セクハラ」の2つに分けることができます。
それぞれについて詳しくご紹介します

(1)対価型セクハラ

「対価型セクハラ」とは、労働者が、セクハラを拒否したりすると、当該労働者が解雇、降格、減給等、労働条件上の不利益を受けることをいいます。
(例)

  • 上司が部下に性的な関係を要求したが拒否されたので、その労働者に不利益となるような配置転換をした
  • 出張中の社内で上司が部下の腰や胸に触ったところ、抵抗されたので、その労働者を降格させた
  • オフィス内で社長が日頃から労働者に関する性的なことを公然と発言しており、従業員がそれに抗議したため、その従業員を解雇した

(2)環境型セクハラ

「環境型セクハラ」とは、職場において行われる性的な言動により、職場の環境を不快にし、労働者が働く上で重大な支障を生じさせるものをいいます。
(例)

  • オフィス内にヌードポスターが掲示されていることを従業員が苦痛に感じ、業務に専念できない
  • 仕事中に上司が部下の腰や胸などにたびたび触るため、部下は苦痛に感じ、仕事に行く意欲をなくしている
  • 同僚によって、自分の性的な情報を意図的かつ継続的に取引先にバラされたため、苦痛を感じ、仕事が手に付かない

セクハラ関連の裁判例

では、セクハラ被害を裁判で訴えると、裁判所はどのような判断をするのでしょうか。
セクハラの裁判例を紹介します。

(1)京都地方裁判所判決令和元年6月28日

本件事案は、学校の分室長が、常勤講師に対し、以下のセクハラをした事案です。

【セクハラの内容】

  • 加害者が、複数回にわたり、嫌がる被害者を抱きしめてキス
  • 加害者が、複数回にわたり、嫌がる被害者の胸をさわる
  • 加害者が、ラブホテルで、拒絶する被害者と性交渉に及ぶ

これらの一連のセクハラは約3ヶ月間に及んでおり、被害者は、うつ病などを患いました。
被害者はこの一連のセクハラの後、休職・退職し、労災の支給決定設けています。

被害者は、損害賠償請求を求めて、学校と、セクハラをした(元)分室長に対し、裁判を起こしました。
結果、京都地方裁判所は、セクハラにより以下の損害が発生したことを認めています。

  • 医療費
  • 休業損害
  • 逸失利益
  • 通院慰謝料(160万円)
  • 後遺障害慰謝料(660万円)
  • 弁護士費用(※実際に支払った弁護士費用の額とは異なることが多いです。以下同じ)

もっとも、上記金額より、

  • 本事件に起因して受け取った国民年金障害基礎年金などとの「損益相殺」
  • 原告の元々の精神状態などが損害に寄与した部分があるとして、「過失相殺」

が行われていますので、実際に被告らに支払いを命じた金額は、約590万円(学校と加害者の連帯責任)となります。

なお、上記事案では、加害者が、性的言動につき被害者の同意があったと主張していますが、被害者がたびたび、弁護士や警察など第三者に被害を相談していたことなどから同意はなかったと認定されています。

参考:京都地方裁判所判決令和元年6月28日|裁判所 -Courts in Japan

(2)最高裁第一小法廷判決平成27年2月26日労判1109頁5頁

本件事案は、加害者らが被害者らに対して、1年余りにわたってセクハラ発言等をしたことを理由として、加害者らが出勤停止及び下位の等級に降格されたため、加害者らは会社に対し、出勤停止と降格は無効であると主張して、訴訟提起したものです。

【セクハラの内容(一部抜粋)】(※なお、加害者・被害者はそれぞれ複数名いますが、誰が誰に対して行ったのか区別せず、ご説明します。)

加害者は被害者に対し、以下の性的な発言等をしています。

  • 複数回、自らの不貞相手と称する女性とその夫との間の性生活の話をした
  • 性器について具体的発言をする
  • 複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレス」、「でも俺の性欲は年々増す」と発言
  • 女性客について、「今日のお母さんよかった」、「かがんで中見えたんラッキー」、「好みの人がいた」などと発言
  • 被害者が結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な発言をする
  • 被害者の給与が少なく夜間の副業が必要であるなどと発言する

最高裁判所は、主に以下の理由により、出勤停止・降格処分は有効であると判断しています。

  • 職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切
  • 執務環境を著しく害するもの
  • 当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を生じさせるもの
  • 加害者らの管理職としての職責や立場からしても著しく不適切
  • 被害者の一人は、加害者らの本件各行為が原因の一つとなって、本件会社での勤務を辞めざるをえなくなった⇒加害者らの不適切なセクハラ行為等が会社の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難い
  • 被害者らが明白な拒否の態度をとらなかったことや、加害者らが事前に会社から注意や警告を受けていなかったことは、加害者らに有利に斟酌できる事情とはいえない

参考:最高裁第一小法廷判決平成27年2月26日労判1109頁5頁|裁判所 -Courts in Japan

(3)広島地裁判決平成19年3月13日労判943号52頁

本件事案は、上司らが部下らに対し、忘年会で以下のセクハラ行為をした事案です。

【セクハラの内容】(※なお、加害者・被害者はそれぞれ複数名いますが、誰が誰に対して行ったのか区別せず、ご説明します。)

  • 加害者らが、被害者を挟み込むように、背後と正面から被害者の腰に両脚を巻き付け、被害者の腋の下から両手を回して抱き付いた
  • 加害者が、被害者に対し、抱きつき、被害者がこれを拒絶すると、右足で被害者の左脚太股を蹴り上げた
  • 加害者は、身体の横に水平に伸ばした自身の左腕を、被害者の顎の下、胸の上付近を目がけて打ちつけて、その場に転倒させた
  • 加害者は、被害者の背後から羽交い締めにするように抱き込み、被害者の腰を両脚で締め付けた。別の加害者は、さらに正面から被害者の両脚を広げて抱え込んだ上、嫌がる被害者の股間に自己の陰部付近を数回押しつけた
  • 加害者は、後方から被害者の首を両脚で挟み、後ろに倒した。
  • 加害者は、被害者をよろめかせ、逃げようとする被害者の足首を掴んで自分の方へ引き寄せて、さらに被害者の腰に両脚を巻き付けて、引き倒した
  • 加害者は、背後から被害者の肩に手を回して抱き付き、カメラを持っている人を呼んで、その抱き付いた状況を写させようとした。加害者は嫌がる被害者を放さず、さらに、被害者の顔を力ずくでカメラに向かせて、写真を撮らせた

被害者らは、加害者である上司らとその会社に対し、損害賠償請求を求めて裁判を起こしました。
結果、広島地方裁判所は、セクハラにより、各原告に以下の損害が発生したことを認めています。

  • 慰謝料(80万~250万円)
  • 弁護士費用

ただし、原告らの態度が上記行為を煽る結果になったとして、「過失相殺の法理が類推」(損害額の減額)され、70万~220万円(会社と加害者らの連帯責任)の支払が命じられています。

セクハラの被害者ができること

判例にもあったように、セクハラをすれば加害者は社内で懲戒処分を受けることがありますし、また、被害者は加害者に対し慰謝料などを請求したりすることができます。

セクハラの被害者ができることについてご紹介します。

(1)セクハラを社内の相談窓口などで相談する

セクハラに悩んだら、まずは社内の信頼できる人(上司、人事部、ハラスメント通報窓口など)に相談しましょう。
社内の相談窓口を利用するのがおすすめです。
第三者から加害者に注意をしてもらうことで、加害者が自身の違法性を認識し、セクハラが収まるケースもあります。
また、会社の判断によって、加害者に対し、懲戒処分が行われることもあります。

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

引用:男女雇用機会均等法11条

という義務があるのです。

(2)総合労働相談コーナーに相談する

各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などに設置されている総合労働相談コーナーでセクハラを相談することもできます。
ケースに応じて、助言・指導・あっせんを受けることもできます。

助言・指導は、都道府県労働局が、紛争当事者に紛争の問題点を指摘したり、アドバイスしたりするというものです。
助言・指導で解決できない場合は、あっせんの手続きに移ることもできます。

あっせんとは、「紛争調整委員会」が行うものであり、紛争当事者(セクハラでいえば加害者と被害者)の間に、労働の専門家である、あっせん委員が介入して、話し合いをする制度です(助言・指導を経なくともあっせん手続きを利用できます)。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

(3)悪質なセクハラ被害を警察に相談する

特に悪質なセクハラの場合は、加害者を強制わいせつや強制性交等(きょうせいせいこうとう)のなどの罪に問えることもあります。
犯罪に該当するような悪質なセクハラの場合は、警察への相談も視野へ入れましょう。

(4)弁護士に相談する

セクハラ被害について弁護士へ相談するという方法もあります。
弁護士に相談すれば、具体的にどのような対応をとったらよいのか相談に乗ってくれます。
また、弁護士に依頼すると、加害者との交渉や裁判手続きなどを代理して行ってくれます。

(5)労災の申請を検討する

事業者は1人でも労働者を雇用する場合は、労災保険に加入し、労災保険料は事業主が支払う義務があります(農林水産の一部の事業を除きます)。
そして、セクハラによって心身の健康を害した場合、労災だと認められれば労災保険を利用できます。
労災保険では、療養給付(治療費・手術費・入院費など)や休業給付(休業の4日目から休業基礎日額の60%を支給)といった給付を受けることができます。

参考:セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合は労災保険の対象になります|厚生労働省

(6)セクハラ加害者に慰謝料を請求する

セクハラは、被害者の人格的利益や「働きやすい環境で働く利益」を侵害する行為として民法上の不法行為にあたります。
また、使用者(会社)は従業員(加害者本人)のセクハラ行為について使用者責任(従業員を使用していることによる責任)を負うこともあります。
したがって被害者は加害者本人の不法行為や、加害者の使用者(会社)の使用者責任などにもとづいて、損害賠償を請求できます。
慰謝料の請求は、一般的には、相手との交渉からはじまり、相手が交渉に応じない場合は民事訴訟によって行います(交渉をせずに訴訟から始めることも可能です)。

【まとめ】セクハラは一人で悩まないことが大切

セクハラは、被害者の羞恥心につけこんで、長期間にわたって行われることもあります。
放置しておくと、被害がエスカレートする場合もあります。
そのため、社内の相談窓口や弁護士など第三者に間に入ってもらうことも視野に入れておきましょう。

また、事案よっては、労災申請や、慰謝料請求をすることも可能です。
セクハラでお悩みの方は、一人で抱え込まず信頼できる第三者へ相談しましょう。

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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